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水とタバコ

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ち、よ、こ、れ、い、と

性懲りもなくすうじ。


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「一松にいさんチョコ食べない?!」
 二階のへやでうたた寝をしていた一松を叩き起こしたのは例によって十四松の声だった。よろよろと上体を起こして今にも落ちそうな瞼を指で擦る。「チョコ?」。あくび混じりに問うと、弟は「チョコ!」と鸚鵡返す。彼の手は母親がよく特価で買ってくるファミリーパックのチョコレートの袋を掴んでいた。
 六人も子どもがいる家庭において何がいちばんたいへんかといわれればそれは当然食費で、ましてや全員が男で、しかも全員が同い年だ。育ち盛り食べ盛りだった頃に比べて今は幾分か負担は減ったかもしれないけれど、子ども達がみな成人してもなお、子ども達がまだほんとうにほんとうの子どもだった頃と変わらずに家の棚には何かしらの菓子類が常備してあって、それは基本的には誰が手をつけても構わない。自分の小遣いで買い、ほかのきょうだいに絶対に食べられたくないものには必ず名前を書くというルールが、むつごのあいだでは徹底されている。逆にいえば、名前の書いていないものは即誰の所有物でもなくなり、誰かに勝手に食べられていたとして文句は言われない。
 十四松は襖を後ろ向きの態で足を遣い閉めると、胡坐を掻いた一松の前に坐る。ファミリーパックの袋を大袈裟な音を立てて開け、個包装にされた一つを一松に差し出した。そうして自分も一つの包装を破き、ひょいとくちに入れる。ガリッと音がして、十四松のくちの中でチョコレートが噛み砕かれる。「あんまー!」と幸福そうに顔を綻ばせる目の前の弟は、ほんとうに自分と同い年なのだろうか、と一松は一瞬だけ訝しんでしまう。
「これもしかして中にアーモンド入ってるやつ?」
「んん? あ、そーだね! 入ってる入ってる」
 次々くちに放りこんではガリガリと咀嚼しながら、十四松は屈託なく言った。彼にとってアーモンドが入っていようがいまいがチョコレートと名前のついたものはつまりチョコレートであり、それ以下でもそれ以上でもなく、まあどうでもよいことらしい。咀嚼のさまを見ていると、頑丈な歯がチョコレートにコーティングされたアーモンドを粉微塵にしていく様がを、まるで映像を目にしているように想像できる。
「じゃ要らない」
 一松は包装を指先で破りつつそう言った。
「えーなんで?」
「ってゆうか食えない。俺アーモンドきらいだもん」
 そうだったっけ? と首を傾げる十四松のくちもとに、包装を破って取り出したチョコレートを近づけてやる。彼は何の躊躇いもみせず、兄の指に摘まれたそれをくちに含む。ガリッ、と奥歯がチョコレートを噛みしめる。
「そうだったっけ、一松にいさんアーモンド食べれなかったっけ」
「だって、硬いし噛むの面倒」
「すげえ一松にいさんらしい理由だね!」
「まーね」
 ファミリーパックなのに既に1/3は十四松の胃袋の中におさめられてしまった。ほかのきょうだい達がみな出払っていてよかったと一松はそっと胸をなでおろした。いくらファミリーパックでも六人もいれば一人の取り分は途端に少なくなる。美味そうにぱくぱくとチョコを頬張る十四松を見ていると、この際だからもうすきに食ってしまえといった気持ちさえ湧く。どうせ俺はアーモンドがすきじゃないし。
「ほんとに食べなくていいの?」
 十四松をじっと見つめていると、一松がほんとうは食べたがっていると勘違いをしたのか、珍しく控えめな調子で弟は問うた。「俺ぜんぶ食べちゃうよ?」。
「食べちゃっていいよ。俺食えないもん」
「食わず嫌いじゃない? にいさんもたまには硬いもの食べないと総入れ歯になるよ? あとなんかボケやすくもなるんだってよ?」
 どこで仕入れた情報だそれ。いやまあ事実っちゃ事実、か。
 つっこもうとした一松のくちもとに、十四松が一粒のチョコを近づける。
「ほい、にいさんあーんして?」
 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。がさがさに荒れた弟の指に摘まれたチョコを、仕方なく一松は咥内に受け容れた。
「……あんまー」
 チョコは当り前に甘くて、一松のくちの中で時間をかけてとろとろと溶けてゆく。飴でもチョコでも、一松は弟のように歯でもって噛むという行為に積極的ではない。できれば労力をかけずに美味しいものを食べたいと思う。噛まずに食べられるやわらかいものや、ぐだぐだに煮込んだ肉などを、だから彼は好んで食べる。
 飴を舐めるように咥内でチョコを転がし、やがてコーティングはすべて溶け、固形物だけがそこに留まった。ざらざらとした皮、独特の香ばしい匂い、先端が尖っていて上顎に刺さるようだ。
「にいさん、がんば! ちゃんと噛んで!」
「……むり」
 一松は十四松の襟を引っ張って、落ちてきた唇を乱暴に食んだ。ふにゃ、とした頼りのない感触に浮かされそうになりながら、咥内に停滞していたアーモンドを舌で動かし、十四松の唇のあい間に押しこんでいく。
「む、ぅ、」
 顔を離し、一松は自分の唇を舐めた。チョコと十四松の唾液の味がした。目の前で硬直している弟の唇の端に付いたチョコの欠片を指先で拭ってやると、ようやく十四松は我に返った。耳までまっ赤にした顔を晒し、まなこを大きく見開いて、一松から渡ったアーモンドを奥歯でガリッ、と噛みしめた。
「にいさん将来ぜったい入れ歯なるしボケるね!」
 砕いたアーモンドを勢いよく飲みこみ、十四松は頬を紅潮させたまま破顔する。
「……総入れ歯になったりボケたりしても、十四松に介護してもらうからいい」
「じゃあ俺はぜったいにボケらんないねぇ。俺もボケてにいさんもボケたらたいへんなこっちゃ」
「そうだからお前はよく噛んで食って、ぜったいにボケたらあかんでぇ」
 くちの中で溶けたチョコレートは唾液によって洩れなく流され、けれど甘さの名残りが鼻の奥を抜ける。
 もし次にアーモンドチョコを食べる時があったら、こういうふうにして食べよう、と一松はひそかに心に決めた。

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まあ人間も動物なんですけどそれとこれとは別問題であるからして

す うじ

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 さいきんはおもに睡眠欲と食欲と性欲しか感じないから、いよいよ動物に近づいているのかもしれない。昏々と眠っては陽が高くなる頃に起き、用意されている何かしらを食い、また浅く眠り、とろとろとした微睡みの中であの子をおもって自慰をする。吐精したあとのだるさに引きずられるようにして再び眠り、陽が暮れる頃に起きだして、すこしだけ外を歩いてみたりする。路地裏の猫たちに餌をやって、頭を撫でて、帰りしな欲しいものなど何もないくせにコンビニに寄り店内を一周して、結局何も買わずに家に帰る(そもそも、金を持ってきていないのだ)。
 だから俺は動物なの。というような話を弟にすると、彼は「へえ!」と感嘆の声を上げた。意味がきちんと伝わっているのかはわからないけれど、「へーそっかーそうなんだー!」なんて言って純粋極まりないきらきらとした瞳を向けられると自分の発することばなどつくづくどうでもよいものにしか思えなくて、俺は黙って弟の手を握る。本能で生きる動物だから、今はただただこの子とセックスがしたかった。弟は優しいから拒んだりしない、弟は優しいから自分から唇を重ねてきてくれる、弟は優しいから俺の耳もとで甘い息をついて笑う。弟は優しいから抱きしめるとあたたかい。泣きたくなる。
「本能に任せて交尾するって、最低でしかないね」
 でも俺は動物だから仕方がないの、ごめんね。
 ぶつぶつと呟く俺の頭を撫でさすりながら、弟はしばらく黙った。すきだよ十四松と唇に載せてみた。俺はこんなにもただの動物だけど、おまえのことがすきだよ十四松。
 からだを離して弟は俺の顔を見据える。斜視気味のまっ黒いまなこ。それから俺の鼻の頭に自分の鼻の頭をくっつけた。先端のとんがりは硬さと同時に皮膚のあたたかさとやわらかさを感じさせる。頬を擦り寄せ、額を額で撫で上げる。猫同士が親愛をつたえる動きにそれはよく似ていた。
「俺もすき」
 甘ったるい声で弟はいう。そうしてすこし声を低めて、
「そんで俺もにいさんとおんなし動物だよ」
 だから安心していいのだという。同族なのだと彼はいう。
「俺もただの動物だから」


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(一松と十四松)

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ようこそおそ松沼。

おs松沼に落ち松た。
【松】降りかかるこの世のすべては紙一重であるということ【数字松】
一松→十四松のつもりで書いた数字松です。捏造過多すぎて、は、は、恥ずかしい~~~
1.75次創作くらいに思ってもらえればいいのかな。とか。
頭の中の妄想が暴走していて、かつてrkrnであれこれ書いてた頃の気持ちに近いものがあって、いささかの懐かしさをおぼえつつ。どちゃくそ長いしたぶん誰にも受けなさそうなあれだけど、私はすげえ楽しかったです。満足です。
それにしても旬ジャンル書くのってほんとに緊張する。

そんなつもりはなかったのになんか今回だらだら書いちゃったからもっと短くてふつうにほもほもしたほもが書きたい、眠る前にさらっと読めるようなほもが書きたい(し、読みたい)。


まえにツイッターで言及してたむつごの食卓の囲み方とトド松について自分用メモ〆









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たぶん知っていた


さいきんtwitterとかpxvについて色々考えてて、色々考えちゃってる時点ですでに現代の諸々に染まってるって思うんだけど、それについて書こうとしてあほらしくなってやめた。代わりにくそどうでもいい私のさいきんのこと。年末年始はやっぱりぜんぜん楽しくなかったのだけれど、数年ぶりに初詣に行けたしおみくじも引いたし初売りにも行けて、ぜんぜん楽しくなかったなりに年末年始らしい年末年始を過ごせたのではないかしら。年始早々生まれて初めてドンキに行ったのはどう考えても意味がわからなかったけれど(言いだしっぺは私)。毎年年末年始は心身ともに不調に陥りやすいのですが、ことしも例によってそうで、かなしかったけれど、まあいいや。きょうお散歩ついでにCD屋さんにいって前々(かなり前)から気にはなっていたけれど私にはもう若すぎてだめだわって思っていたバンドのCDをものは試しと借りて聴いたのですが、ああ、この感じを私は今まで何度も体験していたはずだったな、ということを思いだして、せつなくなった。たとえば19歳の私や21歳の私が手にとっていたとしたら、今頃は自分の中のだいじなだいじな一つとして育ってくれてたんではないかしら。感情が年々にぶってきているのをおぼえるとただただ虚無、ってかんじがしておそろしくもなる。このバンド、名の知れたバンドなので私がどうこういえるものではないしいうつもりもないのだけれど、今の私が愛するにはあまりにも若くて純粋で、手に余って、困っている。ああすきだなあと声にするのが憚られる。ほんとうはそんな躊躇い必要がないはずなのに。聞きたくない言葉ばかり耳に入るし見たくないものばかり目に映るし、でもそんな中で私は生きているのだなあ、なんかそれってすごいよなあ。去年は身を護る術を知らなくてど、どうしよう…ってなってばかりいたけれど、今年はそこそこ守りに入って、でも必要な楽しみは取り入れて、自分で自分をきちんとコントロールできるようになりたいものです。私は周囲の同年代の子たちよりはるかに臆病で、世間知らずであることはもう充分に思い知ったし人間として生き始めて間もない幼児なのだから、自分を通じて痛みをおぼえないと他人の痛みがわからない三歳児なのだから。

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ごめんね数字松

殴り書き一と十四。
たぶんおなじようなの100000万個くらいある。
※ほんとは140字で書け的なお題で書きたかったけど140字でなんか書けなかったやつ。




 反射的にぎゅっと目を瞑る。唇にかさついた皮膚がふれる。十四松の唇だと認識してから一瞬遅れて、キスをされているのだと理解する。彼の唇は年中荒れていて、見るだに痛々しい。目を瞑ったまま舌で唇を舐めた。血の味がした。綴じていた目を開けると斜視ぎみの瞳がまっすぐにこちらを見ていて、「にーさん顔まっか!」と笑った。おなじ顔をした弟の、無邪気な表情と言葉に、幸福よりも先に絶望を感じた。あ、終わった、と一松は思った。もうこれで終わった。ただでさえお先真っ暗な人生、もうどうにでもなってくれたって構わなかったのだけれど、心のどこかで、この一線だけはけっして越えたくないと思っていたことに驚く。
「……何、してんの」
 十四松は「んー?」と首を傾げて、
「ちゅー?」
「なんで」
「えー?」
 したかったから? あくまで無垢にそう言われる。一松が無言でいると次第に十四松の顔から笑みが消え、やがて狼狽の色が顎から額にかけて波のように拡がった。
「あ、ご、ごめんっ」
 動揺を苦笑で覆い隠しながら後退していく。
「ごめんにーさん! 嘘! じょうだん!」
 びっくりした?! ごめんね! 笑って、でろでろに延びたパーカーの袖を振り回して、ついさっきの事実をなかったことにしようとする十四松は卑怯だと思った。お前それはねぇだろ、と一松の心中に憎しみが湧いた。こちとらもう人生終わったと覚悟してんだ、じょうだんになんか、するんじゃねぇよ。
「いだっ!」
 十四松の胸倉を掴んで茶の間の畳に押し倒し、乱暴に唇を塞ぐ。乾燥して荒れた唇からはやはり血の味がして、舌で舐めるとざらついた感触がつたう。気持ちのよいものではないと思ったけれど、こいつは唇まであったかいんだなあとそれだけは発見だった。
「一松にいさん、」
「十四松顔まっか」
 うっそ! と両手で顔を覆う。その様がいじらしくて可愛くて、ひどく憎らしかった。ぎゅうと抱きしめるとまるで何の抵抗もなく十四松も一松のからだに抱きついて、にいさんごめんねと耳もとで囁かれる。
「なにが」
「さっきの嘘」
「さっきの、って、どのさっき」
 キスをしてきたこと? それともそのあとの言葉?
「嘘ってゆったの、嘘」
 あ、終わった、と、一松は泣きたい気持ちで思った。
 俺の人生ここで終わり、やっぱりここが終着点。こんな狭い実家の茶の間が、生まれてから20余年過ごしたこの場所が、俺の終着点。
「……かなしい?」
 くぐもった声で問われて、一松は逡巡する。かなしい、と答えたら、この子をいたずらに泣かせてしまうだけなのはわかっていた。すなおにかなしいと言葉にして、弟をかなしませたくはないと思った。
「かなしく、は、ない」
「ほんと!」
「でも、ちょっと泣きたい」
「なんで?!」
 わかんないけど、泣きたいから慰めて。頭を十四松の頬にすり寄せると、十四松は「はいはいはーい!」と快活に返事をして――ご丁寧に挙手までして――一松の頭をぽんぽんと撫でた。
「かなしくはないけど泣きたいの、おっかしいねー!」
 泣いてもいいよ、にいさん! などと元気に言われても、泣けるはずもなく、一松は黙って十四松の黄色いパーカーの裾を握りしめた。



(一松と十四松)

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