忍者ブログ

水とタバコ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

トイレ(洋式)にて臨死体験

 どうしても一人なような気がした。どうしても一人なような気がしてしかたがなくて「わあっ」と叫んで胃の中のものを吐き出したくって咄嗟に咽に指を押しこんだ。雑に切られた爪はいびつな半月のかたちをしていて先端は、わずかにざらついていて、(私はやすりを掛けるということをしないので、)咽の奥の粘膜を引っ掻き疵をつける。咽の奥の粘膜と口蓋の切り疵が痛く、ひどく痛く、胃の中のものは消化されつつあって酸っぱい味がした。どこもかしこも酸っぱかったり痛かったりで内側は、ひりひりとしてたまらなかった。生理的な涙がマスカラを付けた睫毛をシャドウを乗せた瞼を濡らし溶かし私の顔をけっして美しくない顔をますます醜いものに変える。トイレの底の水に黄色と茶色とほのかな赤の混ざった液体が点々と浮かぶ。わずかな隙間に顔が映る。醜い顔が映る。醜い顔を私は醜いと思う。醜いと思う私を醜いと思う。吐きたい叫びたい泣きたい。あらゆる感情が毛穴から沸き上がり私の内側から表面に噴出する。設置されたヒータがスキニーパンツに包まれたくるぶしを、まるで焼くかのようにあたためている。唇に触れた涙と鼻水がしょっぱかった。咽奥からこみ上げる胃液が酸っぱかった。どうしても一人なような気がした。視線を上げる。狭いトイレのちいさな窓辺に、蛍光灯の光を受けとめた硝子のコップが一つ置かれている。どうしても一人なような気がした。どうしても一人なような気がしてしかたがなくて、中途半端にあたためられたトイレの床に尻を押しつけて、「わあっ」とちいさく叫んで私は硝子のコップをみあげて泣いた。


拍手

PR