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水とタバコ

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こんなにばかげた日常を、おまえは愛してくれるのか


×××


 あの人からたばこの匂いがする。あんまり好きではない匂いだ。好きではない匂いだけれど、あの人のことを愛してしまってから多少のそういう都合の悪いことなんてどうでもよくなって、好きではない匂いすら好きになってしまいそうで、それはなんだかすげえ怖い、とか思いつつも、やっぱりあの人のことが好きなので、こうして抱きついて深くふかく呼吸なんかをしてしまうのだ。
「たばこくさいべ」
 と、頭の上であの人が笑うのを振動で感じる。少し黙ってから、くさいっす、と俺は正直にこたえる。息をするように自然な動きであの人の手が俺の頭のてっぺんに触れた。
 大きくてあたたかな手のひらだった。
 あの人が俺より2つ年上で、そのぶん俺より2年はやく大人になるのを、俺は未だによく理解できないまま、ただただ好きです好きです愛してます好きですほんとうに、愛してるんですをくりかえして、ばかみたいに何度も何度もくりかえして、そうして今もまだこうして二人でいっしょにいる。狭いベランダに続く窓のふちにあぐらをかきながら、腰に抱きつく俺の頭を撫でて、あの人の横顔はまるで大人のものだった。大人の男のものだった。
「飛雄の頭はむかしっから変わんないな」
 笑いを含んだ声が届いて、目を上げる。夏の終わりの、すこし弱くなった逆光が彼の髪を透かしてきらきらときれいだった。
「アタマ」
 意味がわからず首を傾げると、「頭のかたち」と訂正された。頭のかたちなんて意識したことがなかった。彼の手のひらが俺の頭を撫で、そのたびに俺はぞくぞくとして、軽く彼の服の裾を握るけれど、そんなのには気づかないのか気づいていない真似(フリ)をしているだけなのか、まるで無視して、何かを探るみたいにひたすら手のひらを動かすのだった。
 犬とか、猫とかの、動物になった気分だった。
「飛雄の頭のかたち、俺すき」
 なんといったらいいのかわからない。なんといったらいいのかわからないけれど、あの人の声は幸せそうで、耳に落ちると非道くこそばゆい。
 ふいに涙が出そうになって、綴じた瞼を彼の腰におしあてた。シャツから甘い匂いがする。それにまじってかすかにたばこの匂い。
「孝支さん」
 彼のからだははんぶんがベランダに、外に、出ていた。それ以上そちらに行かれるのをとめたくて、ほとんど縋るみたいに俺は彼の腰を抱きしめた。
「もうベランダでたばこ吸わないでください」
 こちらに背を向けて、窓をぴしゃりと閉めて、たばこを吸う彼の後ろ姿を見ているのは、なんとなく厭だった。たばこより、たばこの匂いより、厭だった。
 まるで「お前とは何の関係もない」といわれている気持ちになって、かなしくなるのだった。
「……だめだよ」
「だめじゃないです」
 吸うなら部屋で、俺の側で吸ってください。そういう意味をこめて彼の瞳をみつめる。彼はあきらかに困った顔をしていた。彼を困らせていると胸がざわついた。けれど言いたかった、しかたがなかった。
「だめじゃないです」
 彼がたばこを吸うたかが5分か6分、そのたかが5分か6分のあいだに俺が感じる、へんな緊張感とさびしさを表現できるほど俺は言葉を知らなかった。ばかみたいに「だめじゃないです」とくりかえす。この人にいう、好きです愛してます愛してるんですと、おんなじ頼りなさで。
 彼の指が頭を、髪の毛を、撫でる。俺のほうが大きいけれど、俺のよりずっと大人なかたちをしている指を感じる。俺より2年、色んなことを知ってる手。
「おまえはまだ子どもだから、だめ」
 彼の目が、俺を見下ろして、それがあんまり優しい色をしていたから、俺は何も言えなくなった。
 くちを尖らせると、彼の指がそっと降りてきて唇でとまった。唇の、薄い部分に指先のかたちを感じる。思わず、舌を出してそれを舐めた。しょっぱい味がした。それから、ほんの少しだけ、たばこの匂い。
「なにより、スポーツマンの前でたばこなんか吸えないべ?」
「……孝支さんだってスポーツマンじゃないっすか」
 彼は何も言わなかった。くちもとに薄く笑みを浮かべて、じっと俺の瞳を覗いていた。
 むかしよりすこし瘠せた気がする、白い指。甘く噛むと、しょっぱさに交じってほんのりとした苦味を舌に感じた。
 その味が、どういうわけかとてもとてもせつなかった。


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サイトに小説ひとつ、しぶにも新しいのひとつ、上げました。つっても新しいのは短篇だけど…
仕事の合間に西瓜売りのトラックが走ってるのを見て、書きたくなって書きました。夏の影菅。
夏の話

去年までの季節の感じ方と今の季節の感じ方が違います。今年はすごく時間を肌で感じます。今までだってたいせつにしてきたつもりだけど、なんとなく、粗末に扱ってきたんだなあ。もったいないことをしてきた。
夏の話書いといてなんだけどはやくも冬のお話が書きたくて、影菅の冬!ぜったいかわいい!
冬がいちばん好き。

ところでアニメの飛雄ちゃんが激可愛くてたまらない。可愛いし美しいし萌えすぎて笑った…笑うしかない…
顔ちいさい!!!ってまずそこからなんだけど、顔ちいさいし髪の毛さらさらだしまっくろだしそのくせダサい髪形してるし、
この子は自分の美しさになんて頓着しないんだ…と思ったら、
なんというか色々滾りました。
ああ~~~可愛い……

今回はとんだサービス回で、なんかもう申し訳ない……といったきぶん。
飛雄ちゃんのお部屋が唐突に公開されて、まっっったく予想してなかったためおおいに動揺しました。二度見した。
家具らしい家具がなくて、じゃんぷ(?)が平積みだったのに萌えました。じゃんぷなのかは知らないけどたぶんじゃんぷなのでしょうきっと。じゃんぷ!とかすげー高校生ぽい!かわいい!!

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3年くらいオフ活動てしてないんだけど、紙媒体はやっぱりすばらしいと理解できたので、
としょだより的なぺらっぺらな影菅コピー本作りたいな~~~お金なんかいただけないので会ってくれるかたに押し付けてまわりたい……私が作りたいだけです……

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